舶匝(はくそう online_checker) on GETTR : #小説 「 #天皇制最期の日 」
(74 )司法修習生T (五本目)
振り返れば、奴でも、殿でもなく、大家さん。
毎月、第一土曜日の午後に顔を会わせているから、すぐに見分けがついた。
家賃を紙幣で納...
#小説 「 #天皇制最期の日 」
(74 )司法修習生T (五本目)
振り返れば、奴でも、殿でもなく、大家さん。
毎月、第一土曜日の午後に顔を会わせているから、すぐに見分けがついた。
家賃を紙幣で納めさせる古風さに、首を傾げた。が、家庭菜園の作物やお茶を、家賃を納める度に頂いた。
コーヒー派だけど……。
「頭隠して、尻隠さず、だなっ。」
大家さんは、通販番組の包丁を手にしてた。包丁は赤グロい。顔に赤い斑点。服にも赤い筋やドット。
顔も動かない、声も出ない。
「安心しろっ。」
安心できる要素、どこにもないっ。
「君は、目撃者。」
隠れていたから、何にも見てないです。
「後世に伝えてくれ。ついでに、親御さんにも。」
何を?
「じゃっ。」
と大家さんは去った。
大家さんの足音が消えるまで、フリーズ。
しかし、何も聞こえなくなると、修習席の下は、急に居心地が悪くなった。
修習席から這い出た。
見渡した。
もう、法廷ではなかった。