舶匝(はくそう online_checker) on GETTR : #小説 「 #天皇制最期の日 」
(55 神宮の使者R(一走目)
或る年長者が駐車場料金に泣かされる約三十分前、十一時三十分。鳥羽発伊良湖岬行きのフェリー、もうすぐ到着する旨のアナウンスが流れる。
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#小説 「 #天皇制最期の日 」
(55 神宮の使者R(一走目)
或る年長者が駐車場料金に泣かされる約三十分前、十一時三十分。鳥羽発伊良湖岬行きのフェリー、もうすぐ到着する旨のアナウンスが流れる。
フェリーの客席で、アイスコーヒーを飲む。水筒から直に。
しかし、水筒は、すぐに空になった。
左手に水筒、右手に革ジャン、立ち上がる。無人売店のアイスコーヒー販売機に、蓋を外した水筒を置く。
「タッチパネル式かよ」
とぼやいても、決して音声認識式には変わらない。
画面の「エスプレッソ・アイスコーヒー(ボトル注入)」にタッチ。しかし、皮グローブには、なかなか反応しない。
反応した。
タッチパネル式だから、顔認証支払いに未対応。
支払機能付きの腕時計をかざす。
アイスコーヒーが水筒に落ちる。
水筒がカフェインに満ちた。
アイスコーヒーが止まる。
水筒を取り出し……蓋を付ける。
今、口を付ける訳には、いかない。
この販売機で、三度目のコーヒー購入なのだから。
皇居まで、まだ遠いのだから。
接岸中を伝えるアナウンス。
車両甲板に降りる。
電動バイクは変化なし。荷台のケースも。
このケースの中には、神宮より託されし桐箱。桐箱の蓋は十六本の釘で打ち付け済み。
神宮の神主から受け取ったとき、
「其の中に書簡が封じられている」と告げられた。
「中身の詮索を許さぬ」などと威圧的な態度で。
書簡の文面は、想像が付く……神宮は、今上天皇に此の上ない敬愛の念を云々……と陳腐な礼賛文。
こんなものを宮中に届けたところで、今や「使用済みコーヒー豆と大差ない」皇室への威信は……。
靴の中に隠した依頼料がなければ、あんな桐箱、伊勢湾に投げ捨てていただろう。
(つづく)
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