舶匝(はくそう online_checker) on GETTR : #小説 「 #天皇制最期の日 」
(54 「ピンク」と「坊主ヘッド」七)
役員はボヤく。
「替え玉、用意しなかったのか。」
「坊主ヘッド」もボヤく。
「これの調達で手一杯でした。
...
#小説 「 #天皇制最期の日 」
(54 「ピンク」と「坊主ヘッド」七)
役員はボヤく。
「替え玉、用意しなかったのか。」
「坊主ヘッド」もボヤく。
「これの調達で手一杯でした。
予算!」
役員は何も言い返せない。
ワゴン車は駐車場の出口を目指す。
「坊主ヘッド」はスルりと、前部座席との間に身を締める。首を少し動かすと、「ピンク」と目が合った。
「坊主ヘッド」は「ピンク」に囁く。
「虚言はバレています。」
「?」
「髪。」
「?」
「坊主になるには、バリカン、必須です。」
「……」
「派手に燃えたなら、頭皮に火傷跡が残ります。」
「……」
「虚言を責める気はありません。
その勇気を称えたいです。」
「……ありがと」
ワゴン車は駐車場料金を精算する。
役員は、料金に「なして?」と声を上げる。十数時間分。
「坊主ヘッド」は役員に、
「経費で落ちます。」
と突き放す。
役員は、小型犬の鳴き声のような声を出しつつ、支払う。
「坊主ヘッド」は「ピンク」に囁く。
「髪、ない方が――」
「楽。
軽ーい。」と、「ピンク」は頭頂部を撫でる。
「捨てると、心地よい軽さを得られます。
物にくっついている感情にも、『重さ』がありますから。」
「……財布も軽くなったぞ。」
と、役員の泣き言。
「坊主ヘッド」は即座に返す。
「その悲壮感は、捨てることを強いられたから、です。……経費で落ちます。
たぶん。」
ワゴン車は駐車場を出た。
「もう隠れる必要ないぞ。」と、役員。
「ピンク」と「坊主ヘッド」が身を起こす。
ワゴン車は、皇居の堀沿いの道を走っていた。
「坊主ヘッド」は気付く。
「昨日より車……少ない。」
銃声が一つ二つ、聞こえた。
役員は背筋を正す。
「坊主ヘッド」は、口の中で経文を唱える。
「ピンク」は……生あくび。
ワゴン車は、乾門へと走る。