#小説 「 #天皇制最期の日 」 (39　ハッカーPの場合(一口目)) 午前十時五十六分、木々の生い茂る東大本郷キャンパス、その中の或る木の中程、太い幹を背もたれに、太い枝に腰を落としている。長い脚(自慢です)を、だんだん細くなる枝に巻き付け、バランスを取っている。 長めの大腿部(これも自慢です)には、大きめのラップトップ型ワークステーションが、鎮座。 盗難防止用ワイヤーで、腰のベルトとワークステーションとがつながっている。 ワークステーションの画面は、左右に二分割。 左側は、東大ネットワークの状況。外部からの途方もないアクセス・トラフィック。機能不全状態。 右側は、SE部屋の監視カメラ映像。 惨憺たる光景――怒鳴るTシャツ巨体、キーボードを叩き続ける死んだ目八つ、頭を抱えたままフリーズする最年少、キーボードで最年少を叩くバーコード、巨体の椅子に引っかかってコケる短足、短足を踏み付ける巨体――面白い光景。 片隅に鎮座するエナジードリンクの小さい山が、堪える。笑いのツボに。 砂糖の塊に頼るな。日光、浴びろ。 巨体が揺らぎ、崩れ、床に突っ伏した。 バーコードが電話をかける。 画面の片隅に着信通知。東京大学ITセキュリティセンター、もとい、バーコードから。 しかし、無視する。 負け戦は、遠くから眺めるに限る。 SE部屋の監視カメラ映像に視線を戻す。 最年少は、巨体に近付く。介抱……する奴では、ない。 最年少は、巨体の頭部(見た目に反して結構軽い)に、ナイフを突き立てる。巨漢から解放された短足は、そのナイフを引き抜き、頸部を切断し始める。 つまり、東京大学ITセキュリティセンターのガンが切除される。 喜ばしい事ではあるけど……思ったことが口に出た。 「なしてそげなことに?」 (つづく) https://amzn.to/38ZVTOf