舶匝(はくそう online_checker) on GETTR : #小説 「 #天皇制最期の日 」
(22 若手刑事J の場合(一)。)
九時半、京都府警本部……近くの細長い雑居ビル、その最上階(四階)。勿論、ワンフロア貸し切り。
静脈認証式のオートロックドアを開けると、...
#小説 「 #天皇制最期の日 」
(22 若手刑事J の場合(一)。)
九時半、京都府警本部……近くの細長い雑居ビル、その最上階(四階)。勿論、ワンフロア貸し切り。
静脈認証式のオートロックドアを開けると、ケプラー繊維入りのアコーディオン・カーテン。
それを横に押しやると、使いこまれた応接セット。その奥に、細長いダイニングテーブルセット、テーブル上のの数か所から、手錠付きチェーンが生えている。その先は窓。レースのカーテン。他には何もない。書棚も、冷蔵庫も、ネット回線も、電話回線も、ない。
しかし、万全の防音仕様、万全の電波暗室仕様。
だから、「太鼓」を叩ける一方、電子端末の類は一切、使えない。
使われては、困るから。
今、この部屋に客人が立ち入る。
この部屋は、府警内でも数人しか知らない。
そのうちの二人がドアの外に、もう二人がここにいる。他は別の場所で、がさ入れ中。
客人の後ろに張り付いている先輩が、アコーディオン・カーテンを締める。普段と違って丁寧に。
客人に応接セットの上座、窓に近い席を勧める。
しかし、客人は下座、ドアに近い席に座った。
これは、よくない。
客人は、府内某女子高の制服を着こなしている。しかし、客人の娘さんは数年前に、医学部を卒業。
つまり、客人の周囲は、時空の歪んでいる。娘さんの失踪以来、客人の時は止まったままだから……。
ということにしておこう(実際には、接客業での着用経験があるから)。
客人の過去は、洗い出し済みだ。
そんなことは、どうてもいい。
客人に、とりあえず声を掛ける。
「完璧な変装ですね。」
客人は
「平家物語の先例に倣っただけです。」
と。
へい一家の物語、そんな任侠映画があるのか。
「天皇が危篤ですね。」
「それが、何か?」
そうですよね。
(続く)