舶匝(はくそう online_checker) on GETTR : 小説 「 #天皇制最期の日 」
(19 I の場合(序)。)
九時、農事組合法人代表理事室。日当たりの悪い六畳の洋間。
代表理事就任から、まだ数か月。まだ慣れない部屋。
窓を開けた。暑いからだ。...
小説 「 #天皇制最期の日 」
(19 I の場合(序)。)
九時、農事組合法人代表理事室。日当たりの悪い六畳の洋間。
代表理事就任から、まだ数か月。まだ慣れない部屋。
窓を開けた。暑いからだ。
開けても、暑い。盆地の宿命。
「クーラー、まだ、直らなくてねー。電気屋さん、明日まで来なくてねー。
すまないねー。」
しかし、使い込まれた作業服の下に、キッチリとネクタイ締めているその男は、直立不動のまま。表情一つ変えない。
「こんな日になるなんて、この農事組合法人が始まって以来なんだよねー。」
などと呑気風を装っても、
「代表理事さんは、数年前に加入したばかりですよね。」
と返されてしまう。
この男は、知ってる。
演劇捨てて、相方の実家に転がり込んだことすら、知っている。
相方の実家、その隣家の息子だから。
「そうだねー。けどねぇ。ここの記録くらい全部、目に通してるよー。」
「数十年分も、ですか。」
「この場で、再現できよー。数十年分ぜーんぶ。」
どんな台本も、半日で覚えた記憶力。
「いえ、お気持ちだけで。お気持ちだけで」
この男は、知ってる。暑苦しい演技ぶりも。
相方はなんで、あんなものを見せたのかっ!
風は、ない。
暑い。
しかし、今、ここは寒々しい。
「まぁまぁ、どうぞ、お座りくださーい。」
「床に、ですか。」
応接セットを売り払ったことを、忘れていた。
「代表理事の椅子に。」
「?」
「小さくても、トップの椅子っ。座って損はないよ。」
得したこともないけど。
男は「いいんですか」などと言いながらも、不幸の椅子に座った。
(つづく)
#皇位継承 #農業生産法人